寒さがライディングに及ぼす影響を知る
冬のツーリングは澄んだ空気や冬ならではの景色が魅力ですが、寒さはライダーにとって最大の敵となります。単に寒いという不快感だけでなく、体の冷えは安全運転に直結する重大なリスク要因です。気温が低い状態で長時間走行風にさらされると、体温が奪われて筋肉が硬直します。体がガチガチに固まってしまうと、セルフステアを妨げない柔軟なフォーム維持が難しくなり、バイクとの一体感が失われてしまいます。
さらに深刻なのが、手足の感覚が鈍くなることです。指先がかじかんでくると、ブレーキレバーやクラッチレバーの微妙な操作ができなくなります。本来ならじわりとかけるべきブレーキが唐突になってしまったり、スムーズな半クラッチができずにギクシャクしてしまったりすることは、スリップしやすい冬の路面では非常に危険です。また、低体温症に近い状態になると、判断力が低下し、反応速度も遅くなります。危険を察知してからブレーキをかけるまでの時間が長くなれば、それだけ事故の確率は上がります。
このように、防寒対策は単に暖かくして快適に過ごすためだけのものではなく、夏場と同じような身体能力を維持し、安全にバイクをコントロールするために必須の準備と言えます。寒さを我慢して走ることは、知らず知らずのうちにライディングスキルを低下させ、疲労を蓄積させる原因となります。冬でも安全に走り続けるためには、気合や根性で乗り切るのではなく、機能的なウェアや装備に頼って、体温を適正に保つ工夫を凝らすことが何よりも大切です。
レイヤリングで暖かい空気の層を作る
バイクの防寒対策において最も重要な考え方が、ウェアを重ね着するレイヤリングです。ただ分厚いジャケットを一枚着れば良いというわけではなく、役割の異なる衣服を重ねることで効率的に保温効果を高めることができます。基本となるのは、肌着となるベースレイヤー、保温層となるミドルレイヤー、そして風を防ぐアウターレイヤーの3層構造です。
まず肌に直接触れるベースレイヤーですが、ここでは汗冷えを防ぐことが最優先です。冬でも厚着をして運転をすれば意外と汗をかきます。綿素材の肌着は汗を吸うとなかなか乾かず、濡れたまま体温を奪っていくため、バイク用としては適していません。速乾性のある化学繊維で作られたスポーツ用のアンダーウェアや、発熱素材を使用した機能性インナーを選ぶことで、肌を常にドライな状態に保つことができます。
次にその上に着るミドルレイヤーは、暖かい空気を溜め込む役割を担います。フリースやダウンベスト、ウールのセーターなどがこれに該当します。この層で体温によって温められた空気を保持し、断熱層を作ることが暖かさの秘訣です。ただし、着込みすぎて動きにくくなってしまっては本末転倒ですので、薄手でも保温性の高い素材を選ぶのがコツです。そして最後に一番外側に着るアウターレイヤーです。バイクは常に風を受け続ける乗り物ですから、ここで完全に風をシャットアウトしなければ、中の保温層も意味をなしません。防風フィルムが入ったライディングジャケットなど、風を通さない素材のものを必ず着用してください。この3つの層が正しく機能して初めて、極寒の中・高速道路などでも体温を維持することが可能になります。
首・手首・足首の3つの首を温める
ウェアのレイヤリングで体の中心部を温めても、冷気が侵入しやすい隙間が無防備では防寒効果は半減してしまいます。特に重点的にガードすべきなのが、首、手首、足首のいわゆる3つの首と呼ばれる部位です。これらの部位は皮膚のすぐ下を太い血管が通っているため、ここが冷やされると冷たい血液が全身に回り、体全体が芯から冷えてしまいます。逆に言えば、ここを重点的に温めることで、効率よく全身の暖かさを保つことができます。
首元にはネックウォーマーが欠かせません。ヘルメットとジャケットの襟元の隙間は、走行風が最も入り込みやすい場所です。マフラーは走行中に解けて車輪に巻き込まれるリスクがあるため、筒状のネックウォーマーを使用するのが安全です。鼻まで覆えるタイプであれば、顔面の寒さも軽減できます。手首に関しては、グローブとジャケットの袖口の隙間を埋めることが重要です。袖口が大きく開いたジャケットよりも、ベルクロやゴムでしっかりと絞れるタイプを選び、グローブの裾(カフス)が長いロングタイプのウインターグローブを組み合わせて、風の侵入経路を完全に塞ぎましょう。
足首も同様に、ライディングパンツの裾から風が入らないように工夫が必要です。くるぶしまで隠れるライディングブーツを履くのはもちろんですが、隙間風を防ぐためのレッグウォーマーや、ブーツの上から被せるブーツカバーなども有効です。また、つま先は血流が悪くなりやすく最も冷えを感じやすい部分ですので、厚手のウールソックスを履くか、靴用カイロを活用するのも一つの手です。これら3つの首を隙間なく守ることで、ウェアの中に閉じ込めた暖かい空気を逃さず、冬の冷たい風の中でも快適なツーリングを楽しむことができるようになります。

